内部不正をしようとする気を起こさせないための組織論 ~時代を問わず、生き残る組織を作る~ 正しいフォロワーを育てることが、優秀なリーダーを生む。「フォロワーシップ型リーダーシップ」を実践せよ



現代の日本ではリーダーシップという言葉の意味が誤解されており、それが様々な組織で内部不正や歪みを生む原因となっている。フォロワーが、主体的にリーダーを補佐し、批判的なリコメンド(提言)こそ大切にする「フォロワーシップ型リーダーシップ論」が世界的に当たり前になっている今、日本の組織に足りないものとは? 海上自衛隊時代には呉地方総監として9,000人をまとめる立場にいた金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸教授が、2020年1月21日に都内で開催された「Network Security Forum 2020」(主催:NPO法人日本ネットワークセキュリティ協会)で講演し、これからの日本に求められるリーダーシップ論を語った。


<プロフィール>
金沢工業大学虎ノ門大学院 伊藤俊幸(いとうとしゆき)教授

防衛大学校機械工学科卒、筑波大学大学院修士課程(地域研究)修了。海上自衛隊で潜水艦乗りとなる。潜水艦はやしお艦長、在米国日本国大使館防衛駐在官、第2潜水隊司令、海上幕僚監部広報室長、同情報課長、情報本部情報官、海上幕僚監部指揮通信情報部長、海上自衛隊第2術科学校長、統合幕僚学校長、海上自衛隊呉地方総監を経て、2016年金沢工業大学虎ノ門大学院教授就任。

組織の内部不正リスクを組織論で解決するには?

最初に、私と情報セキュリティの関わりについて簡単にお話しをさせていただきます。2006年にファイル共有ソフト「Winny」が暴露ウイルスAntinnyに感染することで個人情報や機密情報が流出。大きな社会問題となりました。その際に機密情報を漏洩してしまった最初の組織が海上自衛隊だったのです。当時の私は海上自衛隊の海上幕僚監部広報室長で、記者会見を開いて謝罪したのちに情報課長への異動を命じられ、事態の収拾に当たりました。具体的には、その頃まだあまり知られていなかった「コンピュータ・フォレンジック」(編注:ハイテク犯罪でコンピュータや記憶媒体などから法的証拠を探す科学捜査のこと)を実施し、漏洩を起こしたコンピュータの中身を細かく調査しました。

そして翌年の2007年、今度はイージス艦の情報漏洩事件が起こりました。こちらも私が担当課長としてフォレンジックを実施させました。その情報が記録され持ち出されたHDDを調べたところ、結果的にデータへのアクセス履歴が見られなかったため、当時の小池百合子防衛大臣に漏洩の心配はない、と報告したことを思いだします。その後、海上幕僚監部指揮通信情報部長に就いた際は、防衛省サイバー防衛隊の設立準備にも関わりました。


内部不正が起きるメカニズムとして、「機会」「動機」「正当化」という三つの不正リスクによる「不正のトライアングル」理論が広く知られています。1つ目の「機会」は「不正をしてもバレないだろう、誰も気にしないだろう」という職場環境があるということです。2つ目の「動機」は、個人的に借金がある人や業務上重いノルマを課されている人、あるいは成功者として認められたいという思いが強い人などに生ずる心理的なきっかけです。3つ目の「正当化」は、「みんなのためにやった」「こうした方が効率は良くなる」といった「こじつけ」を作りだし、「絶対に不正をしない」という強い意思が持てなくなる心理的問題です。この3つが揃うと不正が起きてしまうので、このどれか一つだけでも切り離そうという考え方です。


このうち「機会」については、今日ご参加いただいている皆さんが既に対策をされてきている分野だと思います。コンピュータやネットワーク内から物理的に不正ができる「機会」を潰せば、個人の心理上の問題としてコントロールが難しい「動機」や「正当化」がたとえあったとしても不正はおこなわれない。専門書にはよくそう書かれています。しかしそのセオリーとは別に、今日私はあえて「動機」や「正当化」という人間の心の持ちようの部分を組織論で解決できないか? ということをお話ししようと思っています。これは働き方改革や、今年施行されるパワハラ防止法にも通じるお話なのです。

日本人は、一人一人には高い倫理観がある素晴らしい国民なのに、組織の一員になると何かおかしくなります。上司に自由にものが言えない。上司から言われたら間違ったことでもやってしまう。余計なことを言うと自分がやらされるなど。先進国でこういう考え方をする人たちは、そう多くありません。私が企業の社長や会長と話をすると、若い人たちに「どんどん言いたいことを言え」と声がけしても反応が返ってこないと嘆きます。一方で若い人たちに話を聞くと、彼らは言いたいことがちゃんとあるのですが、組織にはいわば「粘土層」のような人々がおられて、そこが若者とトップのコミュニケーションの邪魔をしている。ここにいらっしゃる方にも思い当たる節があるのではないでしょうか。これが現在の日本社会、日本によくある組織です。そういうことだからイノベーションが起きにくい。一流企業であればあるほど、下から意見が出てきても「粘土層」が邪魔をするのです。これをなんとかするためのお話をしようと思います。

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